インドネシア:パプア人の権利を奪う法改正反対デモに暴力と暴言

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2021年9月 2日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:インドネシア
トピック:先住民族/少数民族

自治権を制限する法改正に抗議するインドネシアの先住民族パプアの人びとが、治安部隊から過剰な力の行使や差別的暴言を受けていることが、アムネスティの調べでわかった。

インドネシアの国会は、パプア特別自治法に基づきパプア人の自治権を認めてきたが、同法を改正し、自治権を制限する方針を固めた。この動きを受けて、7月14日から8月16日にかけて、複数の都市で法改正に抗議するデモが発生した。

アムネスティは、ジャカルタなど4都市であった抗議に参加した17人に聞き取りをした。

彼らの証言によると、デモ参加者は治安部隊から放水銃を浴びせられ、殴る蹴るなどの暴行を受け、少なくとも1人が負傷した。また、拘束される際、「サル」という人種差別的暴言を吐かれた人が3人いた。アムネスティが入手した動画や写真でも、治安当局が平和的に抗議する人たちに暴力で対応し、複数の負傷者を出していることが確認された。

治安部隊による暴力や罵声は、パプアの人びとに対する当局の差別意識がいかに根深いかを物語る。インドネシア政府は、直ちに治安当局の不当な力の行使や差別的中傷の事実を調査するとともに、パプア人の表現の自由と平和的集会の権利を守る対応を取るべきだ。

銃撃、殴打、人種差別的虐待

聞き取りで得た証言によると、8月16日、パプア州ヤフキモであった抗議デモでは、治安部隊がデモ隊に向けて発砲し、1人が負傷した。また、パプア州の州都ジャヤプラでは、放水銃が使われ、警棒や銃による暴行もあったという。治安隊員が放水銃を使用し、警棒を振るっている様子は、動画でも確認できた。

アムネスティが得た他の証言からも、当局が過剰な力を行使していることが裏付けられた。

7月14日にジャヤプラでのデモに参加したという2人は、警官が拳や銃、警棒などでデモ参加者たちに暴行しているところを目の当たりにしたという。アムネスティは、治安部隊員2人が、デモ隊に警棒を打ち下ろす様子を動画でも確認した。

7月15日のジャカルタであった抗議デモに参加して拘束された1人は、「抗議グループから引きずり出され、何度も殴られた上、『サル』と罵られた」と語った。この話は、別の参加者の目撃証言とも一致した。アムネスティは、ジャカルタでのデモに参加したという2人からも、警官隊は、デモ参加者たちを警察車両に押し込む際、「サル」と呼んでいたという証言を得ている。

7月19日に西パプア州ソロンのデモに参加した1人は、拘束された人たちの釈放を求めただけで暴行を受け、拘束されたという。別の参加者も、治安当局が過剰な力を使っていると批判し、「当局がデモを潰すのは、パプア人に権利を主張させたくないからだ」と語った。

アムネスティは、抗議参加者のプライバシー保護のため、動画や写真を公開しないことにした。

特別自治法

パプア人の抗議の矛先は、インドネシア国会が特別自治法の改正法案を可決したことだけに向けられているわけではない。平和的デモで反逆罪に問われ、終身刑のおそれがあるパプア独立運動家ビクター・イェイモさんの無罪釈放を求める声や自分たちへの差別政策に対する抗議もある。民族自決権も要求している。

2001年に施行されたパプア特別自治法は、パプアの人びとの民族自決権の求めに応え、インドネシアに留まる前提で、その自治権をある程度認めた。しかし、今回の法改正により国の権限が拡大し、パプアの人びとの権利は制限されてしまう。また、これまで認められてきた政党の結成が、認められなくなる。さらに改正法は、特別自治の調整や評価の役割を担う新たな専門機関を創設し、そのトップには副大統領が就くと定めている。

パプアの人びとが特別自治法改正に激しく反発する背景には、当事者である彼ら自身が、改正に向けた協議に参加できなかったこともある。

インドネシア政府は、パプア人の権利を尊重しなければならない。パプア人が、法改正の協議や施行に全面的に参画することなくして、パプアの人びとの権利を守ることはできない。

背景情報

市民的および政治的権利に関する国際規約は、政治的意見を含む表現の自由の権利を明確に保障している。この国際規約は、インドネシアを含むすべての加盟国に対して法的拘束力を持つ。また、インドネシア憲法も、集会と表現の自由の権利を保障している。

アムネスティは、インドネシアのいかなる州の政治的立場にも与しないが、表現の自由と平和的集会の権利を含む人権は支持する。人権は、憎悪・差別・暴力などを扇動しない限り、政治的意見・見解を訴える権利を保護する。

アムネスティ国際ニュース
2021年8月20日

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