インドネシア:金採掘でパプアの人びとの人権がさらに悪化するおそれ

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2022年3月29日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:インドネシア
トピック:先住民族/少数民族

インドネシア当局は、情勢不安定なパプア州における広大な金鉱山開発計画を直ちに停止すべきだ。そうしなければ、開発が紛争を助長し、先住民族パプアの人びとの土地の権利を侵害するおそれがある。

ワブ鉱区と呼ばれる金鉱床があるインタン・ジャヤ県では、近年、インドネシア治安部隊とパプア独立派勢力との紛争が多発してきた。

アムネスティの調べで、この地域では2019年以降、治安部隊の出動が急増する中、治安部隊によるとみられる殺人が12件発生し、先住民族パプアの人びとは厳しい移動制限を受けながら、日々、暴力を受けたり、拘束されたりしている。

インタン・ジャヤ県の住民はアムネスティに、「金鉱山開発の予定地は、作物を栽培し、猟をし、材木を切り出すところだ」と話す。

パプアの人びとのニーズや要望、伝統を無視したワブ鉱区の開発計画は、急速に悪化する人権状況に追い打ちをかけるおそれがある。

アムネスティは昨年3月から今年1月にかけて、インタン・ジャヤ県の人権状況について、パプアの人びと、地元当局、人権活動家、市民社会・宗教団体代表など31人にリモートでの聞き取りを実施した。聞き取りから、この2年間で急激に悪化する武力衝突と人権侵害の状況が、浮かび上がってきた。

生活への脅威

ワブ鉱区での金採掘事業は、少なくとも2020年2月から計画されてきた。インタン・ジャヤ県のスガパ郡南部にあるワブ鉱区の金埋蔵量は、およそ810万オンスで、インドネシアを代表する金埋蔵地の一つだ。

ワブ鉱区の採掘に関わる許可は目下、エネルギー・鉱物資源省で審査中だ。開発予定の地域は6万9千ヘクタールで、首都ジャカルタの面積に匹敵する。

パプアの人びとは、採掘によって環境汚染にさらされ、土地や生計手段を失うおそれを口にする。

2020年9月、政府高官は、国営採掘企業ANTAM社にワブ鉱区の採掘事業の展開を担わせる意向を表明した。アムネスティは今年2月、ANTAM社とエネルギー・鉱物資源省に採掘で悪化が懸念される人権状況についての質問状を送った。現時点では、いずれからも回答は届いていない。

アムネスティは、ANTAM社やエネルギー・鉱物資源省がインタン・ジャヤ県の紛争に直接的な関与を示す証拠を得ていないとはいえ、紛争が続く中での採掘が、人権と環境に与える影響が懸念される。

政府には、採掘の影響を受けかねない先住民族パプアの人びとと事前に協議する場を持ち、パプア人から、自由意志による、十分な情報に基づく、事前の同意を得ておく義務がある。ただし、暴力と脅しがはびこる中での協議が、国際基準を満たすとは考えにくい。

まずは、現状下で中身がある協議が十分可能なのかを確認する必要がある。適切な協議と合意が成立するまで、インドネシア政府は、ワブ鉱区の開発を一時停止すべきだ。

焼かれた遺体

パプア人独立派勢力とインドネシアの治安部隊との紛争は、何十年も前から続いてきた。しかし、インタン・ジャヤ県で2019年10月、独立派武装勢力がスパイとみなしたバイクタクシー運転手3人を殺害する事件が発生し、それ以降、同県がパプアの新たな紛争地となった。

アムネスティの聞き取り調査で、インタン・ジャヤ県スガパ郡での治安部隊の駐留地は、2019年10月以前は2カ所だけだったが、現在は17カ所に増えていることがわかった。治安部隊の駐留の拡大にともない、暴力、殺人、襲撃の件数も増えていた。

インタン・ジャヤ県での治安部隊による違法と思われる殺人事件の件数は12件で、パプア州と西パプア州での治安部隊によるとみられる殺人事件総数の4分の1以上を占める。

治安部隊による違法殺人は、パプア地域ではしばしば発生しているが、治安部隊が責任を追及されることはまれだ。司法当局は長い間、治安部隊によるとみられる殺人などの人権侵害を十分捜査することはなかった。

しかし、殺人事件を捜査し、加害者の罪を問うことは、パプアの人びとの人権を守り、平和を実現する上で極めて重要だ。

移動の制限、見なりの制限

治安の悪化と紛争の激化に伴い、地域住民の移動の自由が厳しく制限されていることも調査でわかった。

複数の住民によると、買い物や他の村への移動などの日常の行動に、治安部隊から移動の許可を得なければならないという。「買い物に出かければ、住所や行き先を聞かれます。買い物を済ませて家に戻るときには、荷物の中身まで調べられます」と住民は語る。

また、住民は、携帯電話やカメラなどの電子機器の使用も制限されている。長髪や口ひげのパプア人が、独立派勢力の象徴とみなされて治安当局に拘束されることもある。「私たちは長髪を好みます。これは、パプアだけでなくメラネシア文化の一部なのに、神とひげについて、もう10回以上も質問されました」

背景情報

アムネスティは、インドネシアでの州の独立を含む政治的主張に対するいかなる立場もとらない。アムネスティは、政治的状況を問わず人権侵害があれば調査し、公表する。

アムネスティ国際ニュース
2022年3月21日

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