カンボジア:世界遺産アンコール遺跡での住民の立ち退きは国際法違反

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2023年12月 7日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:カンボジア
トピック:強制立ち退き

アムネスティの調査で、カンボジア当局がユネスコ世界遺産のアンコール遺跡群の多数の住民を強制退去させていることがわかった。当局のこの対応は国際人権法に違反する。

およそ1000年前に築かれたとされる遺跡群の保全を名目に、当局は昨年半ば以降、北西部の都市シェムリアップの1万世帯とも言われる住民の強制的に立ち退かせ始めた。

アムネスティは、立ち退きの対象となった100人以上から聞き取りをした。その結果、強制退去に先立ち、当局が対象地域の住民への説明や対話を十分に行なっていなかったことが明らかになった。また、移転先は家もなく、飲料水も衛生設備もなく、生計を立てるのも難しいような場所だった。

当局は、何世代にもわたりアンコールに暮らしてきた人たちを立ち退かせ、衣食住に必要なインフラがない場所でのその日暮らしの生活を強いている。国際人権法に違反する強制立ち退きは直ちにやめなければならない。

ユネスコが活動の中心に人権を据えるなら、世界遺産の管理手段としての強制立ち退きを批判するとともに、その影響力を行使してカンボジア当局の強制立ち退きの中止を要求し、独立した調査を実施すべきだ。

追い出し

昨年、当時のフン・セン首相が世界遺産の保護を理由に住民の転居計画を説明する中で、転居を受け入れなければ補償を受けることはできないと警告した。政府の強制的転居措置は国内では周知のことで、首相の発言は事実上の退去命令と受け止められた。

アムネスティの聞き取り調査から、住民は、村の長老、地元当局、文化財保護担当の役人らから、電力供給の停止から逮捕までさまざまな圧力や嫌がらせを受けていたことがわかった。

聞き取りをした人たちのほとんどが、退去は実際のところ自由意志ではないと言い、70年以上、アンコールで暮らしてきた女性は、「誰も住み慣れた土地から出て行きたいとは思っていない」と語った。

また、アンコール世界遺産を維持・管理する「国立アンコール遺跡整備公団(アプサラ公団)」の職員らから、多数の家屋を繰り返し訪れては立ち退きを求められ、「強制ではないが、退去しなければ土地を失う」などと嫌がらせや脅迫を受けたという。

再定住地

「自発的」に転居した住民は、20m x 30mほどの土地を割り当てられ、トタン板や防水シート、蚊帳などの物資、現金数百ドル、社会福祉サービスカードなどを配給された。

自宅を取り崩し、指定された土地に移って新たに家を建てた人たちもいれば、何カ月も防水シートに覆われた小屋での暮らしを強いられる家庭もあった。また、辺鄙な土地で職を見つけられない人も多かった。

国際人権基準に反して、カンボジア当局は、最も大規模な再定住地でも生活に必要不可欠なサービスや設備を用意していなかった。その結果、住民は、住居の建築費や生活費をまかなうために、移住と引き換えに与えられた物品を質に入れたり、借金を背負ったりしなければならなかった。しかも、移住先は雨が降れば水浸しになってしまうような土地だった。

多くの農民は、水田が遠すぎると嘆いた。また、ピーク時には数百万人の観光客が訪れるアンコールでの収入源を失い、食べるのにも苦労していると訴えた。

アムネスティの調査結果に対して当局者は、「実情から何千キロも離れた遠いところから出した結論だ」と一蹴した。

ユネスコは対応を

これまでユネスコは、住民の強制立ち退きや再定住地の状況を十分把握していながら、公に批判することはなく、アムネスティの指摘に対して調査に乗り出した様子もない。

当局が、再定住計画の正当化に繰り返しユネスコを引き合いに出したこともあり、住民代表者らがプノンペンのユネスコ事務所に窮状を訴えたが、「ユネスコは土地問題に関与しない」と告げられたという。

また今回の調査結果に対し、ユネスコはアムネスティに「住民の立ち退きを求めたことは一度もない」と語った。また、「加盟国がユネスコを引き合いに出してその行動を正当化したとしても、ユネスコの責任ではない」と回答した。

しかし、強制立ち退きが、ユネスコ世界遺産の保全名目で行われている限り、明確で毅然としたユネスコ側の対応が求められる。

ユネスコが強く批判しなければ、保全活動が国家の目的を達成する手段として利用され、人権が犠牲になる事態がますます増えるかもしれない。

背景情報

アムネスティは、今年3月から7月にかけて主な立ち退き地域である世界遺産アンコール遺跡と再定住地を訪れた。

調査員は、行商人、レストラン経営者、農民、伝統楽器職人、公務員、ホテル従業員、トゥクトゥク運転手、アンコールの古代寺院の修復を担当する石工など100人以上から聞き取りをした。

アムネスティ国際ニュース
2023年11月14日

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