- 2025年7月 9日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:カンボジア
- トピック:
カンボジア全土に50カ所以上ある詐欺拠点(「詐欺団地」)で、犯罪組織により奴隷労働、人身売買、児童労働、拷問などの数々の人権侵害が大規模に行われているが、政府はこれに対し意図的に目をつぶっていることがアムネスティの調査で判明した。
アムネスティの聞き取り調査に応じた被害者たちは、本物の仕事に応募したと信じていたが、その代わりにカンボジアに売り飛ばされ、刑務所のような施設に収容され、世界中の人から詐取するオンライン詐欺を行うよう強制された。この地下経済の規模は10億ドルにのぼる。
高収入の仕事に誘われアジアなどの国々から来た求職者たちは、犯罪組織が運営する地獄のような強制労働収容所に送り込まれ、そこで暴力の脅威にさらされながら詐欺を強いられる。だまされ、人身売買の被害に遭い、奴隷にされた人たちは、犯罪に加担させられ悪夢のような状況に囚われたと語る。そして政府は明らかにこの犯罪産業を承知していた。
調査は、カンボジア当局が犯罪阻止に向け十分な行動をとっていないことを示している。当局の怠慢が犯罪ネットワークを助長し、被害が広がっているのだ。警察は、詐欺拠点内で多くの人権侵害が行われているにもかかわらず、拠点の閉鎖に至っていない。詐欺グループの中国人上層部と警察との間で話がついており、共謀している可能性があることが示唆される。
高給で快適な職場を提示
アムネスティは少なくとも53の詐欺拠点を特定し、被害者58人に直接話を聞いた。うち9人が子どもだ。被害者の国籍は8カ国に及ぶ。他にも336人の被害報告を調べた。聞き取りに応じた人たちは、詐欺拠点から脱走したか、救出されたか、家族が身代金を支払って解放されている。調査報告書は240ページにも及ぶ。
聞き取り対象の証言から、カンボジア当局の認識のもとで行われている広範で暴力的な犯罪行為が浮き彫りになった。詐欺危機への当局の対応は極めて非効率的で、買収されている場合もある。その黙認ぶりは明らかで、人権侵害に国家が加担していることを示す。
ある被害者は、人身売買の被害に遭った当時18歳で、タイでの学校の休みを利用して仕事を探していた。人材斡旋業者からは事務の仕事だと言われ、高給を提示され、プールのあるホテルの写真を見せられた。しかし実際は、夜に川を渡ってカンボジアに連れて行かれ、そこで武装した警備員に自分の意思に反して拘束され、詐欺の仕事をさせられて11カ月を過ごす羽目になった。逃げようとすると、ひどく殴られたそうだ。
体が紫色になるまで殴られ続ける
アムネスティは1年半に及ぶ調査の一環として、カンボジア全土の16の町や都市にある53の詐欺拠点のうち52カ所と、詐欺拠点の疑いが濃い45の施設を訪れた。建物の多くは、カンボジアが2019年にオンラインギャンブルを禁止した後、犯罪組織(多くは中国から来た)によって再利用された元カジノやホテルだった。
建物には監視カメラが設置され、周囲の壁には有刺鉄線が張り巡らされ、多くの警備員が配備されていた。警備員は電気ショックを与える警棒や場合によっては銃を持っていた。監禁を意図していると思われる。被害者によれば、「脱出は不可能」だった。
ほとんどの被害者は、フェイスブックやインスタグラムなどのソーシャルメディアに掲載された偽の求人広告によってカンボジアに誘い込まれた。その後、ソーシャルメディアを使って詐欺目的に会話を始めるよう強制された。詐欺の手口は、ロマンス詐欺や投資詐欺、商品詐欺、相手と信頼関係を築いてから金銭を搾取する詐欺などだった。
聞き取りに応じた人たちのうち、1人を除く全員が人身売買の被害者であり、全員が暴力で脅されて強制労働を強いられていた。アムネスティは32の事例で、施設の管理者から事実上の所有者に相当するレベルの支配力を振るわれ、国際法で定義された奴隷の被害者であると結論付けた。被害者は詐欺拠点に売られたり、他の人びとが売られるのを目撃したとも語る。詐欺組織に借金があり、返済のために働かなければならないと言われた者も多かった。
聞き取りした58人の被害者のうち40人が、拷問や虐待を受けていた。いくつかの施設には、働かない者、働けない者、仕事の目標を達成できなかった者、当局に連絡した者を拷問する特別な部屋があった。
被害者たちは、建物内外で人が死んでいると口にした。アムネスティも、中国人児童の死亡を確認している。あるベトナム人が約25分間、拠点のボスに殴られるのを見たと証言した者もいた。「ベトナム人は悲鳴も上げられず、起き上がれず体が紫色になるまで殴られ続けた。その後ボスは、他の拠点がそのベトナム人を買いたいと言うまで待つと言っていた」。
聞き取りした9人の子どものうち、5人が拷問・虐待を受けていた。17歳のタイ人の少年は、身ぐるみ剥がされ、ビルから飛び降りるよう強要された。
カンボジア政府の不作為
アムネスティの報告書は、詐欺拠点での広範な人権侵害について繰り返し指摘されてきたにもかかわらず、カンボジア政府が十分な調査を行っていないと指摘している。当局は、内部で何が起きているか知りながら、それを放置してきたのだ。アムネスティの調査結果は、犯罪のまん延を許してきた国家の不作為のパターンを明らかにし、政府の動機に疑問を投げかけている。
政府は、国家人身売買対策委員会(NCCT)や多くの閣僚タスクフォースを通じて、事態に対処していると主張してきた。しかし、報告書で確認された詐欺グループの3分の2以上は、警察の捜査や「救出」後も活動を続けている。ボタムサコールにある拠点では、メディアが人身売買を大々的に報道し、警察が何度も介入して被害者を救出しているにもかかわらず、いまだに活動を続けている。警察が詐欺組織の上層部と通じているせいだ。例えば、「救出」の多くでは、警察は建物内での捜査もせずに、門の前で管理人や警備員に会って助けを求めた人物を引き渡されるだけだった。その後は、何もなかったかのように詐欺が続けられた。
また、秘密裏に警察に助けを求めようとしたが組織の上層部にばれて、殴打の罰を受けたという被害者も何人かいた。あるベトナム人は警察は「詐欺拠点のために働いており、助けを求めたらボスに報告される」と語る。
救出された人たちは、しばしば劣悪な環境の入管施設で数カ月拘束される。カンボジア当局は彼らを人身売買の被害者と認めず、国際法で義務づけられている支援を提供していない。
一方で当局は、詐欺拠点について発言する人びとを標的にしている。この問題に取り組む人権活動家やジャーナリストが逮捕され、また、ニュースメディア「ボイス・オブ・デモクラシー」は、詐欺問題に関する報道への明らかな報復として、2023年に閉鎖された。
アムネスティはこの調査結果をNCCTに送った。NCCTはこれに対し、詐欺拠点への介入に関する漠然としたデータを共有したが、国が自由のはく奪以外の人権侵害について個人を特定し、調査し、起訴したかどうかを明確にしなかった。また、アムネスティが指摘した詐欺拠点や疑わしい場所のリストに関しても反応はなかった。
カンボジア政府は、こうした虐待に歯止めをかけることができるにもかかわらず、動こうとしない。警察の介入は、単なる「見せかけ」にしか見えない。
カンボジア当局は、これ以上、求職者が人身売買や拷問、奴隷労働などの人権侵害に遭うことがないようにしなければならない。早急に詐欺の手口を調査し、被害者を特定し、支援し、保護すべきだ。奴隷制は、政府が目をそらしているときにはびこる。
なお、アムネスティの調査のために聞き取りに応じた被害者は、中国、タイ、マレーシア、バングラデシュ、ベトナム、インドネシア、台湾、エチオピアの人びとだった。入手した被害記録には、インド、ケニア、ネパール、フィリピンからの人びとがいた。
背景
国際人権法に基づき、カンボジア国家は、いかなる者も奴隷や隷属状態に置かれたり、強制労働を強いられたりしないようにする義務がある。また、子どもたちを経済的搾取から守る義務があり、拷問行為を防止、禁止、調査、起訴しなければならない。カンボジア政府はまた、政府または非国家主体によって行われたか否かを問わず、人身売買を効果的に調査、起訴、裁定しなければならない。人身売買の被害者を特定し、救済措置を提供するとともに、人身売買に遭った人の「救出」活動が、彼らの権利と尊厳をさらに傷つけることのないよう、対策を実施すべきた。
アムネスティ国際ニュース
2025年6月26日
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