2020年は新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、すでにある人権課題が顕在化あるいは深刻化し、女性や難民・移民、LGBTIの人たちなど、もともと弱い立場にある人たちがさらに追い込まれるという人権の危機が浮き彫りになった年でした。また、正義、自由、平等を求めて声を上げた人たちに対する、警察や軍隊による過剰な暴力や武力を用いた取り締まりが頻発するなど、人権を守るために活動する人たちへの弾圧も世界各地で続いています。
アムネスティ日本はこうした状況に対応するため、昨年に引き続き、LGBT差別の撲滅をめざす「Love Beyond Genders」キャンペーン、人権のために活動する人たちとともに行動し、声を上げることで世の中を変えていく「BRAVE」キャンペーン、「新型コロナウイルスから医療・介護従事者を守ろう!」キャンペーンなどに取り組みました。また、香港の「国家安全法」を阻止するための緊急署名や関係各所への要請をはじめ、さまざまな緊急対応を行いました。
国際キャンペーン
「BRAVE~声を上げる勇気~」キャンペーン
強制的なヒジャブに反対し抗議するイランの女性たち
今、自由や平等、正義のために闘っている人たちが、嫌がらせや脅迫、暴力といった攻撃を受けています。「BRAVE」とは、こうした状況に負けずに、時には命を懸けて、果敢に声を上げ続ける勇気ある人たちのこと。アムネスティは昨年に引き続き、「BRAVE」キャンペーンに取り組みました。
特に2020年は、人権活動家が直面する「危険」の要素として、「女性人権活動家」と「デジタル監視」に焦点を当て、オンラインを中心とした署名活動を展開。デジタル監視問題の専門家、小笠原みどりさんの協力を得て、オンラインセミナー「日常生活に入り込むデジタル監視~あなたのケータイも見られている!」を開催しました。
11月には、G20議長国のサウジアラビアで拘束されている人権活動家の釈放を求め、世界中の支部と連動し署名活動およびSNSアクションを展開。日本でもG20の担当である外務省経済局政策課と意見交換を行い、集まった署名を日本政府に提出しました。
緊急対応
■香港:「国家安全法」を阻止しよう!
香港国家安全法の導入に反対する署名を提出。中国大使館前にて
5月、中国の全国人民代表大会が「香港国家安全維持法」導入の方針を決定したことを受けて、導入反対の緊急署名活動を実施しました。翌月、中国大使館へ世界中から集まった署名116,344筆を要請書とともに提出しました。また、外務省中国・モンゴル第一課および人権人道課の課長補佐と緊急の意見交換会を行い、国際人権基準から見た3つの懸念を伝えました。
■米国警察の人種差別・暴力をなくそう!
5月、米国で警官の暴力によって黒人男性ジョージ・フロイドさんが死亡した事件を受けて、米国警察の人種差別・暴力をなくすための署名活動を展開。世界中から集まった米国ジョージ・フロイドさんの正義を求める署名100万筆をウィリアム・バー米国司法長官に提出しました。また、オンライン講演「ブラック・ライブズ・マター 人種差別と警察の暴力を止めろ!」を開催しました。
■新型コロナウイルスから医療・介護従事者を守ろう!
日本でも新型コロナウイルスの感染が拡大し、最前線で感染の脅威にさらされながらウイルスと闘う医療・介護従事者は業務負担が増大。さらに、感染を広げる存在だと見なされ、差別を受けています。こうした医療・介護従事者の「安全で健康的に働く権利」や「差別されない権利」を守るため、日本政府に対する署名を行いました。
12月、厚生労働省大臣政務官と意見交換を行い、署名1,635筆と医療・介護従事者の人権保護を求める要請書を提出しました。また日本医療労働組合連合会(医労連)の協力を得て、医療現場の生の声を聞くオンライン講演会「日本の医療の現場で、いま起きていること」を開催しました。
■気候変動と人権
猛暑、干ばつ、台風、洪水......世界各地で、毎年のように地球温暖化の影響で多くの人の命や暮らしが奪われています。温暖化がさらに進めば人権への悪影響は危機的なものになると懸念されており、温暖化対策は待ったなしです。12月、石炭ゼロを含め、大胆な温室効果ガス削減目標を定めるよう、日本政府に要請する署名活動を開始。あわせてオンラインセミナーを開催し、気候変動に起因する人権侵害についての啓発に取り組みました。
国内法制度の取り組み
LGBT差別の撲滅をめざす「Love Beyond Genders」キャンペーン
性的指向や性自認を理由とした差別禁止の法制化によってLGBTに対する差別をなくすため、2017年から引き続き、キャンペーン「Love Beyond Genders」に取り組みました。2020年は、特設ウェブサイトで世界のLGBTIについての最新情報を配信する世界のLBGTニュースブログを開設するなど、オンラインでの情報配信を中心に、意識啓発につなげる取り組みに注力しました。また、LGBTに対する差別禁止の法制化を日本政府に求めるオンライン署名も開始しました。
難民・移民の権利擁護
左から:佐々木聖子長官、中川英明事務局長(アムネスティ・インターナショナル日本)、牧山ひろえ議員(アムネスティ議員連盟事務局長)、井上哲士議員
国連人権理事会の作業部会から「恣意的拘禁であり、国際法違反にあたる」という旨の意見が日本政府に通達されている外国人の長期収容について、12月、出入国在留管理庁の長官と意見交換を行い、外国人の長期収容をやめることと、難民の受け入れを求める要請書を、17,571筆の賛同署名を添えて手交し、国際人権基準に則った法改正を要請しました。入管庁長官とは、出入国管理及び難民認定法改正案に対して、アムネスティ日本として改善点を申し入れる機会を今後設けることで合意しました。また加盟している「STOP!長期収容」市民ネットワークや他団体とも連携して、7月にはオンラインセミナー「ストップ!長期収容~外国人の収容・送還について専門家が緊急解説~」を、12月にはオンラインシンポジウム「LGBTと難民」をそれぞれ開催しました。
死刑廃止
4月に2019年の死刑統計を発表したほか、死刑廃止ネットワークチームが中心となり、東京と大阪で定期的に「死刑廃止を考える」入門セミナーを開催して死刑廃止を訴えました。また他団体と連携して、10月10日の世界死刑廃止デーイベントとして「響かせあおう死刑廃止の声2020『いのちの選別と死刑』」を開催しました。危機にある個人として支援を行っている袴田巖さんへの支援活動の一環として再審を求める活動を行い、12月22日に最高裁が再審開始を認めなかった高裁の決定を棄却し、審理を差し戻した際には声明を発表しました。9月、3度目の法務大臣として入閣した上川陽子法相に対して、死刑制度を含む刑事司法制度の見直しを要請するハガキ書きキャンペーンを行いました。なお、2020年は9年ぶりに死刑執行のない年でした。
国連自由権規約委員会への報告書提出
国連自由権規約委員会の第7回日本政府定期報告書の審査に先立って、日本政府の自由権規約の履行状況に関する報告書を国際事務局と協力して作成し、同委員会に提出しました。報告書ではこれまでのアムネスティの調査に基づき、国内人権機関の欠如、死刑制度、LGBTIへの差別、少数民族への差別、難民・移民の権利、技能実習生制度、プライバシーの権利、戦時における性奴隷制度、平和的集会や表現の自由などについての懸念点を指摘しました。
イベント
ライティングマラソン2020
暴力をもちいていないのに、自らの信念や人種、宗教、肌の色などを理由に囚われの身となった人びとの自由を求め、世界中の仲間とともに手紙を書く、アムネスティ恒例のイベント「ライティングマラソン」。2020年は、新型コロナウイルス感染拡大でオフラインイベントが例年通り開催できないながらも、世界中で445万通を超える手紙や署名が届けられました。日本国内でも、日本全国にある28のグループとチームが参加し、14,878件の手紙と署名を届けました。対象11ケースのうち2つに関しては、オンラインでも署名を呼び掛けました。