レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックスの頭文字をとった「LGBTI」という言葉。最近では、日本でもよく見聞きするようになったのではないでしょうか。

今年、アイルランドや米国が同性婚を認め、ここ日本でも東京都渋谷区や世田谷区で同性カップルにパートナーシップが認められるようになりました。こうした動きが注目される中、「性」の枠や感じ方が多数派の当たり前と考えている“常識”と違うというだけで差別され、理不尽な暴力を受けている人が今も世界中でたくさんいます。

アムネスティ日本は、2016年10月1日~22日にかけて、「自分らしい性を生きる~LGBTIの私が命をかける理由~」と題し、南アフリカの活動家ファドツァイ・ミュパルツァさんをゲストに全国7カ所で講演会を行いました。各地の講演やイベントへは、延べ500名を超える方に足を運んでいただきました!

鋭い活動家の眼差しを向けるファドツァイさんの話に参加者一人ひとりが真剣に耳を傾け、ディスカッションや質疑応答では、差別や暴力をなくし多様性ある世界をつくるためにできることを考えました。キャンペーン・コーディネーターの山下が報告します。

命をかけて闘う活動家ファドツァイ・ミュパルツァさん

命をかけて闘う活動家ファドツァイ・ミュパルツァさんファドツァイ・ミュパルツァさん(中央):東京講演でを努めてくれた遠藤まめたさん(右)と一緒に

■アフリカでまん延するLGBTIへの差別と暴力

植民地支配で持ち込まれた思想や宗教への強い信仰心などによって、アフリカの国々ではLGBTIを差別する風潮ができあがってしまいました。今も半数以上の国が同性愛や同性同士の性行為を犯罪と定めています。罰金や懲役、終身刑、一部の国や地域では死刑に処せられることもあり、同性愛者またはそう思われる人びとへの不当な逮捕、拷問・虐待、拘束が多く報告されています。差別的な法律がなくても、人びとの間には偏見や嫌悪が根強く残っており、LGBTIの人たちが危険にさらされています。街中でヘイトスピーチを浴びせられる、暴力をふるわれる、職を追われる、ときには強かんされたり、命を奪われることもあります。

■求めているのはLGBTIを特別扱いすることではない

ファドツァイさんは、こうした状況を変えるために、長年、活動しています。母国ジンバブエでは、レズビアンやバイセクシュアル、トランスジェンダー女性の保護とサポートに取り組みました。現在は、活動拠点を南アフリカに移し、アフリカ連合や国連、各国政府への政策提言を精力的に行っています。

2014年、アフリカ連合が性的指向や性自認を理由とした暴力をなくすための決議を採択しました。これは、ファドツァイさんが属するアフリカ・レズビアン連合が8年かけてアフリカ連合に働きかけた成果だといいます。これを実現できたのは、LGBTIの権利に限定することなく、女性や子ども、性産業に従事する人びとの権利、医療や教育を受けられる権利、きれいな水を飲める権利など、「人の権利」ついて議論することを徹底してきたからだといいます。求めているのはLGBTIを特別扱いする権利ではなく、抑圧的かつ暴力的な社会で暮らす個人を守るための権利だということを理解してもらおうとしたのです。

■人と人が思いやりで繋がった世界を

日々の取り組みや自身の性的指向、性自認を理由に、これまで周りから除け者扱いされたり、ひどい言葉を浴びせられる経験を何度もしたといいます。ジンバブエでは、秘密警察に尾行され、監視されたこともありました。危険に直面しながらも、活動を続ける理由には、「人と人が思いやりで繋がった世界をつくりたい」という強い願いがあるからです。そして、この願いを叶えるには、一人ひとりが問題意識をもち、互いに学び、支え合うことが重要だと参加者に強く訴えていました。

講演以外での新たな出会いと発見

金沢での講演後、ボランティアのみなさんと一緒に金沢での講演後、ボランティアのみなさんと一緒に

和歌山田辺で訪れた農家にて和歌山田辺で訪れた農家にて

地方での講演を終えて、東京へ戻ってきたときにファドツァイさんが繰り返しいっていたのは、「日本の普通の人たちの前で話すこと」の新鮮さと楽しさでした。特に講演後の参加者との懇親会がとても嬉しかったようです。

実は畑仕事が大好きだと言うファドツァイさん。和歌山では、ゴーヤ、ねぎ、なすなどの野菜を栽培する自宅を訪れました。名古屋では地元のお祭りに参加し、徳島では川下りを経験する機会も。各地の「名産」に挑戦することも楽しみの一つだったといいます。ひつまぶし、刺身、柿、まんじゅう、しらすなどを食べ、日本の食文化に感動していました。

ご支援、ありがとうございました!

ファドツァイさんを招へいする計画がスタートしたのはちょうど1年前。講演開催地の決定、来日に必要なビザや資料の準備、通訳の手配、会場の確保、講演会の広報・・・。忙しい日々が続きましたが、多くの方に支えられて、実現することができました。

各地の会場へご来場いただいたみなさま、寄付者のみなさま、イベントの企画や運営にお力添えいただいたボランティアと関係者のみなさま、東京講演でファシリテーターを努めてくれた遠藤まめたさん。そして、全国7カ所での講演、NGO関係者との意見交換会、学生との交流会、企業セミナー、メディアへの取材など、多忙なスケジュールをこなし、多くの人にご自身の経験を伝えてくれたファドツァイさん。

心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございました!

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講演場所・日程 金沢講演:10月4日(土)/名古屋講演:10月10日(土)/
大阪講演:10月11日(日)/和歌山(田辺)講演:10月13日(火)/
徳島講演:10月14日(水)/東京講演:10月17日(土)/
神奈川講演:10月19日(月)/
主催 アムネスティ・インターナショナル日本

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