世界で6,500万人。紛争や迫害、極度の貧困で家を追われる人は、今も増え続けています。難民や国内避難民を保護するための責任分担が最重要課題となっていますが、この人道危機に対する国際社会の対応は決して十分とはいえません。

難民の人たちは、どのような状況に置かれているのか。問題解決に向けて市民団体や国際社会、日本政府が果たすべき役割とは何か。

「難民危機に日本は何ができるのか」 東京講演東京講演の様子。150名を超える方にご来場いただきました!

これらについて広く伝え、一緒に考える講演会を、東南アジアで難民の人道支援に取り組む専門家リリアン・ファンさんをゲストにお招きし、11月27日から12月6日、全国4カ所で開催しました。

神奈川・東京・愛知・大阪のどの会場もほぼ満席で、約400人の方に足を運んでいただきました!キャンペーン・コーディネーターの山下が報告します。

人道支援の第一線で奮闘するリリアン・ファンさん

この講演会でゲストにお招きしたリリアンさんは、インドネシア・アチェを拠点とする団体事務局長として活躍されている方です。学生時代から難民問題に関心をもち、これまでの約16年間、子どもや女性の教育、医療支援、紛争地や被災地の復興など、幅広い活動を通して難民支援に取り組んできました。現在は、ミャンマー(ビルマ)で差別と迫害に苦しみ、国を追われたロヒンギャを支援するため、インドネシア、マレーシア、タイを行き来する日々を送っています。

リリアンさん。マレーシアで教育支援をしているロヒンギャ難民とともにマレーシアで教育支援をしているロヒンギャ難民とともに

■「世界で最も抑圧された」ロヒンギャの人たち

ミャンマーで暮らすロヒンギャは、同国の市民として認められておらず、長年、苦しい生活を強いられています。移動の自由を奪われ、教育や医療すら受けられず、また、仕事につくことも難しいため、外からの人道支援を頼りに生活しています。最新のアムネスティの報告書では、軍による掃討作戦で、治安部隊がロヒンギャ住民を不当に拘束、強かん、殺害、彼らの家屋を破壊していることが報告されています。

■「誰もが人道支援家になれる」
海に置き去りにされた難民、移民を救ったアチェの漁師たち

こうした状況下、毎年、多くのロヒンギャが正規の手続きをせずに、危険な海を渡って周辺国を目指しています。2015年5月、およそ8,000人を乗せた船が座礁し、ベンガル湾やアンダマン海に置き去りにされました。タイ、マレーシア、インドネシアが、庇護を求める人たちの上陸を許さず、燃料と物資を渡して、船を押し戻したからです。

船上の人たちは、すし詰め状態の中、何日間も海を漂い、水と食料も底を尽いていました。船旅は密入国や人身売買の業者が請け負っており、船の中は彼らによる暴力も絶えませんでした。

極限状態にあった難民、移民らを救助したのは、アチェの漁師たちでした。「海の上で、助けを求めている人たちがいたら、手を差し伸べる。当たり前のことだ」そう言って、漁師たちは、政府、自治体の政策に背いて、海で立ち往生する人たちを救ったのです。救助後も、漁師たちは彼らを自宅に招き入れ、食料や服を与えるなどして支援を続けました。

すると、漁師たちの活動に呼応して、自治体や政府も救助された人たちを支援するようになりました。仮設住宅を提供したり、医療サービスを受けられるようにしたのです。リリアンさんは、漁師たちの懸命な救助活動を動画で見せながら、「誰でも人道支援家になれる」と、市民や地域社会による支援の重要性を訴えました。

■「難民」ではなく、同じ人としてつながる

リリアンさんが、人道支援に取り組む中、特に大切にしていることは、同じ人間として難民と地域社会の人たちをつなぐことです。例えば、マレーシアで、リリアンさんが進めている活動の一つに、難民の人たちがボランティアとしてホームレスや障がい者、高齢者を助けるといったものがあります。難民の人たちは「被害者」、「支援の対象」として見られがちですが、機会をつくれば「助けなければならない人」ではなく、「社会に貢献する人」になるのです。

ロヒンギャ難民の子どもたちが遊ぶことを学べるような場を、地域の人たちと連携して提供しているロヒンギャ難民の子どもたちが遊ぶことを学べるような場を、地域の人たちと連携して提供している

遠い国の問題ではない 日本、私たち一人ひとりにできること

愛知講演 佐伯奈津子さん(左)、人見泰弘さん(右)愛知講演 佐伯奈津子さん(左)、人見泰弘さん(右)

大阪講演_田中恵子さん大阪講演 田中恵子さん

世界で難民が急増する中、日本へ庇護を求めて来る人たちも増えています。難民を自国で受け入れ、彼らが安心して暮らせるような場所を提供することも、日本が果たすべき役割の一つです。各地の講演では、それぞれの地域で活動する支援団体、活動家の方も登壇され、国内での受け入れ状況とその課題についてお話いただきました。

今回の講演会で登壇されたゲストの方たちがそろって訴えていたのは、リリアンさんと同様、市民や地域社会で難民を支援する体制を育むことの大切さです。

依然として難民の受け入れに厳しい日本ですが、企業や学校といった民間での受け入れ、ユースによる支援活動など、前向きな動きが芽生えつつあります。こうした支援の輪が日本社会に広がることで、受け入れる市民の意識を変え、自治体、政府の政策をも変えることにつながるのです。

講演以外での新たな出会いと発見

ユースとの交流会_「学生として何ができるのか」議論する若者たちユースとの交流会「学生として何ができるのか」議論する若者たち

全国4カ所での講演会以外にも、リリアンさんは日本滞在中、国会議員向けのセミナーや学生との交流会、関連団体との意見交換会、メディアへの取材など、さまざまなスケジュールをこなし、多くの人にご自身の経験や見解を共有してくださいました。その中で、たくさんの出会いと発見があったそうです。

特に関連団体との意見交換会では、日本で暮らすロヒンギャのコミュニティの生活状況を知り、アジア地域での今後の連携について話し合うことができました。また、学生が「できること」について、一緒に考えた交流会では、若者たちの問題に対する熱意を感じ、とてもうれしかったと語ってくださいました。

ご支援、ありがとうございました!

アムネスティが、今年、新たに開始した国際キャンペーン「I WELCOME 難民の未来は、あなたがつくる」。その一貫として、ちょうど1年前にリリアンさんを招へいする計画はスタートしました。忙しい日々が続きましたが、多くの方に支えられて、このイベントを実現することができました。

「日頃は、まとまった時間を割いて、意識啓発の活動に取り組むことが難しい」というリリアンさん。帰国直前も、アチェで起きた地震の対応に追われていました。こうした中で、日本中をめぐり、多くの人に力強いメッセージを届けてくださいました。

ご登壇いただいた景平義文さん(AAR Japan シリア難民支援統括)、小尾尚子さん(国連難民高等弁務官事務所駐日事務所副代表)、人見泰弘さん(名古屋難民支援室 理事)、佐伯奈津子さん(インドネシア民主化支援ネットワーク事務局長)、田中恵子さん(RAFIQ共同代表)。

各地の会場へご来場いただいた皆さま、寄付者の皆さま、イベントの企画運営にご協力いただいたボランティアと関係者の皆さま。

そして、お忙しい中、日本にお越しくださったリリアンさん。

本当に、ありがとうございました!

神奈川講演 職員とボランティアとともに神奈川講演 職員とボランティアとともに

東京講演 お話いただいた各ゲスト、職員とボランティアとともに東京講演_お話いただいた各ゲスト、職員とボランティアとともに

 

【主な講演日程】
※主催はすべてアムネスティ・インターナショナル日本
※本事業は、財団法人大竹財団の助成金を受けて実施いたしました。

開催日 11月29日(火)
場所 国会議員向けセミナー:参議院会館
開催日 11月30日(水)
場所 神奈川講演:神奈川大学みなとみらいエクステンションセンター
共催 神奈川大学
開催日 12月3日(土)
場所 東京講演:青山学院大学
共催 青山学院大学 人権研究会
特定非営利活動法人 難民を助ける会(AAR Japan)
協力 NPO法人メータオ・クリニック支援の会
開催日 12月4日(日)
場所 愛知講演:名古屋市市民活動推進センター
協力 名古屋難民支援室
開催日 12月5日(月)
場所 大阪講演:大阪市中央公会堂
共催 RAFIQ(在日難民との共生ネットワーク)
開催日 12月6日(火)
場所 ユースとの交流会:国際基督教大学
共催 国際基督教大学 平和研究所

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