2月2日(木)、石丸次郎さん(アジアプレスインターナショナル大阪オフィス代表)、宮塚寿美子さん(国学院栃木短大非常勤講師)のお二人を講師にお招きし、講演会「金正恩政権5年 人権状況はどうなっているか?」を開催しました。

当日は、定員50名の会場をほぼ埋め尽くすほどの方にご参加いただきました。主催したアムネスティ日本のコリアチームが報告します。

講師が語る、海外派遣労働者の現状、金正恩独裁体制の特質とは?

まず、講師の宮塚寿美子さんが、5~10万人もいるとされる朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の海外労働者について、動画などの具体的な資料を用いて紹介・説明をされた後、石丸次郎さんが6年目に入った金正恩体制の特質と、北朝鮮社会の現状について語ってくださいました。

■ 北朝鮮の海外派遣労働者-賃金の9割は北朝鮮指導部の収入に

宮塚寿美子さん宮塚寿美子さん

宮塚さんによると、北朝鮮の海外労働者は1967年以来のロシアの森林伐採労働を皮切りに、70年代からはアフリカ、90年代からは中東への労働者派遣も始まり、最近では東南アジア、モンゴル、欧州などにも広がり、約17カ国に及んでいます。

労働者たちの賃金の90%は北朝鮮指導部により搾取され、その額は4~5億ドルにも達して主要な外貨収入源のひとつとなっていているとのこと。

労働者の仕事は、工場・建設現場などでの単純肉体労働だけではありません。近年は、昨年の亡命事件で注目された朝鮮レストランのほか、過去に自国で数多くの指導者の銅像や巨大モニュメントなどを造ってきた万寿台(マンスデ)創作社の人員が、ナミビアなどアフリカの国々に派遣され、記念碑などを建設する仕事に動員されているという事実も注目されているとのことです。また、これらの労働現場では、過酷な労働や安全対策の不備などによる問題が頻発しているそうです。

■ 新「十大原則」で首領・党への忠誠をさらに徹底化-金正恩独裁体制の強化

石丸次郎さん石丸次郎さん

石丸次郎さんは、6年目に入った金正恩体制の特質を、新旧「十大原則」を読み解きながら説明しました。新「十大原則」では首領の神格化や党と首領に対する忠実性と献身がさらに強調されていて、まさに同国が「ウルトラスーパー真正独裁国」となっていると指摘しました。

統制強化が進められている中、携帯電話に対しても、最近中国との国境地帯では強力な電波をよって国外との通話をできにくくするという方策がとられているとのことです。

また不服従者、不敬者など、こうした体制と相容れない者を対象とする拘禁施設として労働鍛錬隊・教化所(刑務所)・管理所(政治囚収容所)があります。労働鍛錬隊は無職、旅行証明書なしの移動、韓国製品を売る等の「不法商売」、ピアス・茶髪・Gパン着用等の「非社会主義」など、刑事罰以前の行為・行動を理由に一年間労働に従事させるもので、これまでも非人間的な扱いが問題とされてきた教化所や管理所とともに見逃してはならない施設です。

一方、北朝鮮社会では闇市が発達しつつあり、三食お米を食べている人も増えていて、配給がなくなっても、かつての大量の餓死者が出た頃とは変わっているとのことで、そのような民衆自身の状況への対応を北朝鮮当局も統制しきれず、2003年、自由経済の闇市を公認するに至りました。

参加者の中には、北朝鮮に行ったことのある人や見たことがある人、ベトナムの北朝鮮レストランに行ったことがある人も相当数いるなど、日頃から北朝鮮に強い関心を持っている人が多数いて、興味深く聞き入っていました。

金正恩時代に入ってからの上からの政治面の変化と、社会の変容が巨視的・微視的の両面から読み取れる内容の濃い講演会でした。

開催日 2017年2月2日(木)
場所 アムネスティ・インターナショナル日本 東京事務所
主催 アムネスティ・インターナショナル日本 コリアチーム

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