日本:直ちに捜査取調べの全面改革を

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2009年6月 9日
[日本支部声明]
国・地域:日本
トピック:取調べの可視化
アムネスティ・インターナショナル日本は、いわゆる「足利事件」に関して、菅家利和さんに対する無期懲役刑の執行が停止されたことを受け、日本政府に対して、捜査取調べの改革をはじめとする刑事司法制度の全面的な見直しを行うよう要請する。

日本の刑事司法制度については、代用監獄として警察留置場に身柄を確保した上での捜査が常態化していることや、取調べが全面的に可視化されていないことなど、国際基準にまったく合致していない。このことは国際社会から非難の的となっており、抜本的な改善を行うよう繰り返し指摘されている。

最近では、2008年10月の自由権規約委員会での日本政府報告書審査において、多数の委員から「取調べとはどうあるべきか、という点について完全に誤解している。自由権規約14条(公正な裁判を受ける権利)の明らかな違反である」、「誰が有罪であるかを決めるのは、裁判所が行うことであって警察の役割ではない」、「現状では推定無罪ではなく推定有罪になっているという印象を受ける。推定無罪は司法の中核であるべきなのに、それが理解されていない」などの厳しい指摘が出され、刑事司法制度を全面的に改善するよう、詳細な勧告が行われた。

菅家さんは、今回の事件の取調べに関して「逮捕後の調べで自白してしまったのは、刑事たちの責めがものすごかったから」、「髪を引っ張られたり、足でけ飛ばされた」として、自白を強要されたと証言している。報道によれば、警察庁と栃木県警がそれぞれ、今回の事件に関して、捜査の問題点を調査するための検討チームを設置した。しかし、これらのチームは独立性のない内部調査であり、その実効性は疑わしい。

麻生太郎首相は、菅家さんの釈放後、「基本的には一概に可視化すれば直ちに冤罪が減るという感じがありません」と発言し、取調べの全面可視化に否定的な態度を示した。また、森英介法相も4日、全面可視化の拒否を表明した。

アムネスティ日本は、独立性が保証されない内部調査や、現在導入されている取調べの一部可視化では、日本の刑事司法の問題は解決されず、同じような人権侵害が繰り返される危険性が極めて高いと懸念する。

日本政府は、こうした事態の再発防止のために、独立した第三者機関による徹底的な真相究明を行い、被害者への謝罪と賠償、そして責任の所在を明らかにするべきである。さらに、日本政府は、国際的な条約機関から繰り返し勧告されている、包括的な刑事司法制度の改善を直ちに行うべきである。この改善には、代用監獄制度の廃止、被疑者取調べの時間制限、取調べのビデオ録画や弁護人の立会いの保障、第三者機関による監視、警察官に対する国際人権基準の研修などが含まれる。

また、立法府は、こうした制度改善のために必要な立法措置を速やかに実施しなければならない。人権侵害の温床となっている刑事司法制度をこれ以上放置してはならない。

アムネスティ日本は、日本政府当局に対し、取調べの全面可視化と代用監獄制度の廃止をはじめとする、刑事司法制度の抜本的改革に直ちに着手するよう求めるものである。

背景情報:
検察庁および警察庁は、2009年5月から、自白の任意性立証に資するとして、裁判員裁判対象事件に限って取調べの一部可視化を導入している。しかし、取調べの全面可視化については、捜査に支障が出るとして否定的姿勢を変えておらず、被疑者の権利保障のための制度改善もまったく行われていない。

また、警察庁は2008年1月、鹿児島県志布志および富山の冤罪事件を受けて「警察捜査における取調べ適正化指針」を公表している。同指針は、取調べの可視化や代用監獄制度の廃止に触れておらず、刑事司法制度の根本的改善には程遠い内容である。

こうした日本の刑事司法制度については、1993(注2)年と1998年(注3)の国連の自由権規約委員会での日本政府報告書審査の際に、また2007年5月の拷問禁止委員会による審査(注4)の際にも厳しく追及され、委員会の最終見解で具体的な改善策が勧告されている。

2008年の自由権規約委員会での日本政府報告書審査では、代用監獄や取調べの可視化に関して、次のような勧告(注5)が出されている。

「締約国は、代用監獄制度を廃止すべきであり、あるいは、規約第14条に含まれるすべての保障に完全に適合させることを確保すべきである。締約国は、すべての被疑者が取調べ過程の最中を含み弁護士と秘密に交通できる権利、逮捕されたその時から、かつ、犯罪嫌疑の性質に関わりなく法律扶助が受けられる権利、自分の事件と関連するすべての警察記録の開示を受ける権利及び医療措置を受ける権利を確保すべきである。締約国は、また、起訴前保釈制度も導入すべきである。」(最終見解パラグラフ18)

「締約国は、虚偽自白を防止し、規約第14 条のもとの被疑者の権利を確保するとの観点から、被疑者の取調べの時間に対する厳格な時間制限や、これに従わない場合の制裁措置を規定する法律を採択し、取調べの全過程における録画機器の組織的な利用を確保し、取調べ中に弁護人が立会う権利を全被疑者に保障しなければならない。締約国は、また、刑事捜査における警察の役割は、真実を確定することではなく、裁判のために証拠を収集することであることを認識し、被疑者による黙秘は有罪の根拠とされないことを確保し、裁判所に対して、警察における取調べ中になされた自白よりも現代的な科学的な証拠に依拠することを奨励するべきである。」(最終見解パラグラフ19)

日本政府は、昨年10月の自由権規約委員会の勧告に対して、刑事司法制度の改善のために取った対策などの情報を、1年以内に報告する義務を負っている(フォローアップ手続き)。日本政府は、刑事司法制度の改善に向け、今回の問題を含め、委員会と誠実かつ建設的な対話を行わなければならない。

アムネスティ・インターナショナル日本声明
2009年6月9日


注2:自由権規約1993年政府報告書審査の際の最終見解
http://www.nichibenren.or.jp/ja/kokusai/humanrights_library/treaty/liberty_report-3rd_observation.html
注3:自由権規約1998年政府報告書審査の際の最終見解
http://www.nichibenren.or.jp/ja/kokusai/humanrights_library/treaty/liberty_report-4th_observation.html
注4:拷問等禁止条約2007年5月政府報告書審査の際の最終見解(暫定訳)
http://www.jca.apc.org/cpr/2007/zantei.pdf
注5:自由権規約2008年政府報告書審査の際の最終見解(仮訳)
http://www.nichibenren.or.jp/ja/kokusai/humanrights_library/treaty/data/Concluding_observations_ja.pdf