日本:東電女性社員殺害事件―司法制度改革の一層の推進を

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2012年7月31日
[日本支部声明]
国・地域:日本
トピック:

本日、東電女性社員殺害事件の再審開始決定に対する異議審において、東京高等裁判所第5刑事部が検察の異議申立てを棄却した。アムネスティ・インターナショナル日本は、検察庁に対し、特別抗告などによって、これ以上、再審開始を妨げないよう強く求める。

本件は当初より、当局による捜査や司法のあり方に多くの問題があった。まず、警察はマイナリさんを入管法違反で逮捕しておきながら、その取調べの焦点を同罪と関連性のない本件の強盗殺人事件にもっぱら当てていた。これは身柄拘束に対する司法審査を実質的に無意味なものとする、違法な別件逮捕・余罪取調べといえる。また、一貫して否認を続けたマイナリさんに対し、威圧などによって自白を強要する取調べがなされたり、外国籍である証人たちへの不当な圧力があったとの報告がある。勾留中には検察による弁護人との接見妨害があったことも、担当弁護士が明らかにしている。そして、一審で無罪が宣告されながら、東京拘置所に再勾留されるという異例の事態となった。この勾留決定に対しては、最高裁でも5名中2名の裁判官が反対意見を表明した。

さらに、本件で顕在化した最大の問題は、証拠開示である。今回の再審開始決定につながった犯行現場の遺留物のDNA鑑定は、弁護側の求めに応じて2011年にようやく検察が証拠開示したことから実現した。この遺留物は、1997年の強盗殺人罪での起訴以前にすでに収集されていたにもかかわらず、その存在が明らかにされたのは実に14年も後のことであった。真実発見を妨げるような検察による手持ち証拠の独占は、著しい不正義であるといわざるを得ない。証拠開示に関して、政府は、被疑者が「自分の事件と関連するすべての警察記録の開示を受ける権利」を確保すべきであるとする、2008年の国連自由権規約委員会の勧告に従って、全面開示に向けた制度改革を直ちに進めるべきである。

また、政府は、同規約委員会の勧告に沿った制度の改正または運用を実現しなければならない。すなわち、本件のような違法捜査を防ぐためにも、取調べの事後的な検証を可能とする、取調べの全過程の可視化を実現しなければならない。また、被疑者の身柄が四六時中、捜査機関の下に置かれ、自白強要の温床となってきた代用監獄制度を廃止すべきである。そして、被疑者の弁護士との秘密交通権をより一層確保すべきである。

アムネスティ日本は日本政府に対し、本事件がマイナリさんから15年もの人生の貴重な時間を奪った事実を深く受け止め、同じ過ちを繰り返さないために、証拠の全面開示、取調べの全過程の可視化、そして代用監獄制度の廃止をはじめとする、刑事司法制度の改革を直ちに進めるよう強く要請する。

2012年7月31日
公益社団法人 アムネスティ・インターナショナル日本