5月18日、上智大学にてセミナー"世界のマイノリティ 「ロマの子どもたち」"が開催されました。このセミナーを共催した、アムネスティ日本 子どもネットワークからの報告です。

セミナーは、主催の上智大学グローバル・コンサーン研究所 小山先生のあいさつで始まりました。

その後、現在、東京大学大学院にてヨーロッパ内外の人身取引・ヨーロッパの移住政策を中心に研究されている、マグダレーナ・ヨネスクさんより、「教育視点から見たルーマニアのケース」について、NGO「反差別国際運動 (IMADR)」 事務局次長の金子マーティンさんより「ヨーロッパのアパルトヘイト~ロマの子どもたちの"分離教育"~」について、それぞれ啓蒙的なお話をいただきました。

その後、お二人に会場から多数の質問が寄せられ、参加者は熱心に聞き入っていました。

ルーマニアで行われたロマへの差別

ルーマニア出身のマグダレーナさんは、ルーマニア共産党が初期にロマを含めた少数民族を党員として勧誘したこと、それによって「通常」のルーマニア人が結果的に自分たちが「負け組」になった印象を抱き、戦前から存在したルーマニア・非ルーマニア人の格差を更に拡大した歴史を説明。

1953年以降、共産党は「ルーマニア」の国民性を強調する政策をとり、少数民族の文化や言語を弾圧。このアプローチは、彼らの文化や言語の価値を損なわせただけでなく、彼らに対する差別を生み出し、ロマは現在もその影響を強く受け続けているとの説明がありました。

また、ご自身の幼少期からの体験をもとに、教育の構造的な問題として、ロマの小学生は家庭ではロマニ語、学校ではルーマニア語という二重言語の負担から不登校にいたるという点が指摘され、その結果、高校に入学する時点でロマの生徒数が減ってゆくという点が指摘されました。

現在でも公然と行われている、ロマへの差別

金子さんからはロマがインド発祥であること、ロマは放浪というイメージに対して95%以上が定住しているというような基本的な知識をご説明いただいた後、ヨーロッパの現状についてのお話を頂きました。

ナチスによってロマが虐殺されたということが広く知られていないように、ロマに対する認識が低いこと、さらに現在、ユダヤは公式に差別されていないのに対して、ロマに対する差別は公然と行われているとの説明がありました。

また、西欧で極右、ネオナチに対する取締が厳しくなったこと、並びに東欧の体制変化による不安の増大から、極右のオルグの対象が東欧に移っていったこと、東欧における法制の不備がそれに拍車をかけているとのことでした。 そこには、体制変化後の国営企業の破綻などに伴う生活の悪化が、怒りを社会的弱者に向けるという社会背景があるとのご説明でした。

ロマの子供にとっての教育上のハンディとして、

1.二か国語で育つこと、
2.就職差別と貧困から来る劣悪な勉学環境
3.親の低い識字率
4.教育を受けても仕方が無いとの諦め(特に女子)
5.先生の多文化への理解不足(当該国の「国語」が堪能でないため特殊学級へ)

などがあげられ、こうしたハンディは、ロマの子どもたちの分離教育が継続される原因となっている点、また一方で、分離教育をやめて同化圧力を強めると、ロマの文化の破壊につながるという課題の指摘もありました。
(欧州人権裁判所は、2007年11月、分離教育が差別を禁ずる欧州人権条約第14条に違反するとの判決を下しています。)


当日会場には、60名を超える方々にご来場いただきました。
お忙しい中、会場に足をお運びいただいた皆さま、ありがとうございました。
 

開催日 2013年5月18日
開催場所 上智大学
主催 上智大学グローバル・コンサーン研究所
共催 アムネスティ日本 子どもネットワーク
反差別国際運動(IMADR)


アムネスティ日本 子どもネットワークは、今後もこうしたセミナーを開催する予定です。
開催の際は、アムネスティ日本のイベント欄に掲載しますので、ぜひ、ご参加ください。

【アムネスティ日本 子どもネットワークとは】

▽どんな活動をしているの?
https://www.amnesty.or.jp/get-involved/act/team/kodomo_network.html

▽過去のイベントを見る
医療と教育の保障なき子どもたち~日本に暮らす外国籍の母親の声~

【ロマについてもっと学ぶ】
強制立ち退き - ロマの人びと