6月21日(日)、大阪市のドーンセンターにて「高作正博さん講演会 死刑制度の憲法論『法治国家』か『報復国家』か」を開催しました。
死刑廃止ネットワーク大阪の森本がご報告します。

雨が降ったりやんだりの梅雨の日曜日にもかかわらず、約40名の参加がありました。大学の法学部教授の高作正博さんのお話は、これまで何度か他団体の催しでうかがったことがあるのですが、「話がわかりやすい」との評判のとおり、難解な法律の問題も平易に説明してくださいます。そこで死刑制度についても、憲法学者としての視点から、法律上の問題を明らかにしていただこうと今回講演を依頼しました。

死刑は何のため?

死刑制度を問う視点として、まず、死刑が何のためにあるのか、という存在理由のお話から入られました。刑罰が矯正のための教育刑であるならば、命そのものを奪ってしまう死刑は、刑罰ではなく報復ではないかと疑問を呈しつつ、日本には、「死に直面することで人間性を取り戻させる」ために、死刑制度を存置させているという側面があると述べられました。しかも、「人間性を取り戻させる」とは、「心から後悔・反省させ、それを態度で示させる」ということだと指摘され、そのような他人の「内心」に対する支配の欲求が日本にはあると言われました。「悪いことをしたのだからしっかりと悔い改め、そのことを示すために死刑になりなさい」というのが日本の死刑制度の存在理由なのだとのことです。

法律の不在・不十分

今日のお話の主題は、死刑の執行がとのような法律に基づいて行われているのか、それは違憲かどうか、というお話です。日本の死刑は、明治6年太政官布告65号に基づいて行われているとされています。これは「法」という名称ですらなく、今日まで新しい法律を作ってこなかった立法府の不作為の違憲性の可能性があるとのことです。

ではどのような場合に、立法の不作為が違憲となるかというと、(1)憲法によって明文上・解釈上の立法義務が明らかに存在し ている場合で、かつ(2)国会が立法の必要性を十分認識しかつそれが可能であったにもかかわらず、合理的と認められる相当の期間を経過してもなお国会が立法を怠った場合、だそうです。

これまでの判例では、(1)に関しては、死刑制度のような重大な刑の執行方法については立法義務があるとの判例があり、(2)に関しては、明治6年太政官布告は、新憲法下でも法律と同一の効力があるとして、太政官布告に基づく死刑の執行を問題なしとして、立法府に不作為の違憲性はないとの結論が出ています。立法の不作為による違憲という論理は、現在のところ、裁判所では否定されています。

太政官布告どおりに執行されていない

hrc_201507_shikei02.jpeg高作正博さん

しかしもう一つ問題なのは、実際には、現在の死刑の執行は、太政官布告の通りに行われていないということです。太政官布告には、執行設備が図解で詳しく定められていますが、現在の執行施設とはかなり違います。しかし、「死刑の執行自体は..安定的な運用が行われている現時点においては…立法の不作為が憲法上の要請に反しているとまではいえない」として、問題がないという判例があります。高作さんはこの点について「厳格な法治主義が要請されるはずで、問題はある。これでは、法律の定めはゆるゆるでもよいと言っているようなものだ」と指摘されました。ただし、最近の判決では、「確かに細部は多くの点で食い違いが生じている」ことを認め、問題がないわけではないとの認識が生まれているといえるようです。

監獄法が改正されたのに…

しかし、「太政官布告は監獄法と一体を為して、刑の執行の方法に関し、行刑法体系を形成していたものというべき」との、判決への補足意見も残っていて、監獄法はすでに廃止され、新たな法律が制定されたにもかかわらず(刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律)、太政官布告がそのままというのはやはり問題ではないかとのことでした。

目を世界に転じてみると

国際社会でも、死刑廃止条約が採択されたり、死刑の執行停止を求める決議が国連で何度も採択されたりして、死刑が廃止される方向であることは疑いなく、日本がこれに背を向けて死刑制度の存続を選択するのならば、少なくとも法律はきちんと整備すべきであり、死刑に関する法的根拠をあやふやのままに放置してはならないと言われました。

違憲性の申し立て方法

監獄法が改正されたのに太政官布告は改正されないなど、立法が一貫性のない裁量に委ねられることを統制する判例が多くなっています。時の経過によって内容が現実に合わなくなっている場合も、新たな立法の義務が生じるといえます。その義務に違反している場合には、死刑の執行が違憲であるとして申し立てることが可能になります。たとえば、死刑の執行方法が法律上規定されていないとして執行の停止を求めるなどです。

切り口の多様性

高作さんのお話は、一般的な死刑廃止論とは違う憲法論からの視点であり、大変興味深いものでした。参加者からも、「難しかったけれど知らないことだったので大変勉強になった」と満足の声が聞かれました。死刑廃止論は出尽くした感があると思っていましたが、このような純粋に法律的な点から死刑制度の問題を追及することも可能なのだと知って、専門分野の方のお話は本当に学ぶことが多いと思いました。難しい分野でも、積極的にお話をうかがうことの大切さも再認識しました。これからも、参加者のみなさまに喜んでいただける講演会を企画したいと思います。

高作正博さん、ご来場いただいたみなさん、どうもありがとうございました!

開催日 2015年6月21日(日)14:00~16:30
開催場所 ドーンセンター(大阪市)
主催 アムネスティ・インターナショナル日本 死刑廃止ネットワーク大阪

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