2018年4月21日(土)、22日(日)、2日間・集中講座「グローバルな視点からジェンダー問題を斬る」をアムネスティ日本の東京事務所で開催しました。

講師としてジェンダーをテーマに各国で人権教育プログラムの実施に取り組んできた米国の弁護士、カロリーナ・バン・デ・メンスブルッゲさん、米国ニューヨーク州フォーダム大学ロースクールから国際法とジェンダー問題を研究する法科大学院生6名と教授が集まり、グローバルな視点から日本のジェンダー問題について考えるワークショップやディスカッション等を行いました。

2日間という短い期間で「LGBTの人たちがおかれている現状に目を向け、男らしさ・女らしさの偏見が及ぼす影響を学び、社会を変えるための知識を身に付ける」ことを目標に、参加者30名がお互いに学び合う、とても中身の濃いイベントとなりました。

日本におけるジェンダー問題とは?

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1日目は社会的ジェンダーと生物学的セックスの違い、日本のさまざまな広告からみるジェンダー・ステレオタイプ、日本で起こるジェンダー不平等と差別、多様なアイデンティティを持つあらゆる人への差別の事例、人権、女性の権利、LGBTの権利を、全体のディスカッションを通し学んでいきました。

■社会的ジェンダーと生物学的セックスの違い

まず各グループに分かれ、「男性のイメージ」「女性のイメージ」をどんどん出していきました。そして次に、その出された答えを社会的ジェンダーと生物学的セックスに分けていきました。

社会的ジェンダーには、男性はパンツスタイル、女性はスカートという衣服の違い、生物学的セックスには染色体の違い、などが例としてあげられました。このように書き出してみると、社会的ジェンダーに振り分けられたものは、男女逆にすることが可能であると同時に、偏見によって「男性のもの・女性のもの」と決めつけられていることが多いことがわかりました。

■広告からみるジェンダー・ステレオタイプ

身の回りの広告やさまざまな商品にも、偏見による「男性は青色、女性はピンク」などのように決めつけられたジェンダー・ステレオタイプが存在します。

そこで、いくつかの広告をピックアップして「どこにジェンダー・ステレオタイプがあるのか」、「そのステレオタイプを無くすにはどのような広告にすればいいのか」などを各グループで話し合い、発表を行いました。

たくさんの素晴らしい案が出され、ステレオタイプが無い広告を考えるのはどれだけ難しいのか、改めて参加者それぞれが気付かされました。

■ジェンダー差別とさまざまな差別

そうした気づきを踏まえ、「ジェンダー不平等・差別とは何か」「実際にどれだけのジェンダー不平等・差別が起こっているのか」について、統計データなどの資料をみて学びました。統計で見ることによって、ジェンダー不平等の日本の現状をより理解することができました。

また、差別とはなにもジェンダー差別だけではなく、多様なアイデンティティを持つあらゆる人への差別がある、ということもわかりました。

例えば、移民の女性であれば女性としての性差別、外国人嫌悪から来る差別、人種差別などがあります。このようにさまざまなアイデンティティが重なり合い、複数の差別を受けている人もいることをケーススタディを通して学びました。

■時代と共に変化するジェンダーステレオタイプ

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2日目は、時代によって変化し続けるジェンダーステレオタイプとその価値観、仕事や家庭で見られる男女としての性役割やジェンダー差別、職場や家庭内、公共機関で見られる性的嫌がらせや暴力、ジェンダーとアクティビズムについて学びました。

時代によって男女の役割も変化してきました。遠い昔には、邪馬台国の卑弥呼のように女性に権力があった時代もありましたが、現在の「男性は外にでて重労働をし、女性は結婚すると仕事をやめ家庭に入り子育てをする」といった性役割の価値観が急速に根付いたのは、主に明治時代からだと言われています。

そうした価値観は、多くの人が普通に使っている「主人(しゅじん)、家内(かない)」といった日本語表現にまで及んでいます。その他にも、「育メン(いくめん)」などの造語について参加者全員でディスカッションを行い、このような造語は正しい表現なのか、意見交換を行いました。

■日本の家庭内や職場でのジェンダー不平等、差別

日本では、家庭内や職場などでも、ジェンダー不平等、差別は存在します。「家事や育児はまだまだ女性の仕事」という考えは、家庭内の不平等の一例です。

職場でのジェンダー差別の例としては、日本の女性国会議員の割合が世界に比べて非常に少ないこと、また、企業において女性の役員や管理職の数が男性と比べて少ないこと、などがあげられます。

日本では1986年に施行された「男女雇用機会均等法」によって、男女平等に雇用の機会を与えるように義務付けられています。しかし、数字を見る限り、このような格差はまだ完全になくなったとはいえず、いまだに職場でのジェンダー差別は続いていると言えます。

また、日本では職場での育児休暇制度が他の国と比べて進んでるにも関わらず、日本人女性の育児休暇取得率は72%と比較して男性は2%と極端に少ないというデータをみんなで共有し、「なぜ男性は育児休暇を取らないのか」について、意見交換を行いました。

■性的嫌がらせや暴力

年々増加している職場での性的嫌がらせ(マタハラ)や家庭内暴力、公共機関での性的嫌がらせについても、みんなで議論しました。公共機関での性的嫌がらせ(痴漢)についてのケーススタディを用いて、実際にどういう取り組みをすれば性的嫌がらせが減少するのか、グループに分かれてディスカッションをしました。ディスカッションでは、「被害者は恐怖で声を出すことができないので、スマートフォンアプリを使って周りの人に助けを求める」など、さまざまな意見が出ました。

最後に、各グループに分かれて、このような問題を改善するために政府や社会の制度、改革に焦点を当てたアクティビズムについて学びました。一口にアクティビズムといっても、ストーリーテリングやアート、写真展、意識啓発、政治参加、ボランティア活動、学校での活動など、さまざまな方法があります。

グループワークでは、各グループで改善したい課題を一つ選び、その課題にどのアクティビズムの方法でどのようにアプローチしていけばいいのか考え、発表しました。最後は時間が足りずに延長するなど、参加者全員が真剣に取り組み、本当に状況を変えていきたい、改善していきたい、という思いが伝わってきました。

■最後に

2日間・集中講座「グローバルな視点からジェンダー問題を斬る」

今回のイベントには、地方からたくさんの方がお越しくださいました。ジェンダー問題に関するイベントは、あまり地方では行われていないということで、「もっと地方でも開催してほしい」などの意見をたくさんいただきました。

その他にも、「講座で用いた広告を見て、どれだけ普段の生活でジェンダーステレオタイプに囲まれているのか、どれだけ当たり前になり浸透しているのか気付かされた」、「いかにジェンダーステレオタイプがLGBTの人に生き辛さを与えているのかがこのイベントを通して理解でき、憤りさえ感じた」など、たくさんご意見をいただきました。

このイベントを企画し講師として取り組んできたカロリーナさんやフォーダム大学ロースクール教授と学生の人たちも、「参加者全員がとても意欲的にジェンダー問題を学んでいる姿を見て、教える側としても勉強になった2日間だった。今回のイベントで学んだことを活かし、それぞれ各自のフィールドで活動してほしい」とおっしゃっていました。

参加された方々にとって、この講座が、ジェンダー問題を理解するきっかけとなり、また、世の中に理解を広めていく最初のステップになれば、とてもうれしく思います。

報告者:ジェンダーボランティア 渡辺 彩音

2日間・集中講座「グローバルな視点からジェンダー問題を斬る」集合写真

実施日 2018年4月21日(土)、22日(日)
場所 アムネスティ・インターナショナル日本 東京事務所
主催 フォーダム大学ロースクール・ウォルターライトナー国際人権クリニック
共催 公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本

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