今回の講演会は平日の夜にも拘わらず、20数名の方にお集まりいただきました。まず初めに、アムネスティより開会の挨拶と、現在の世界と日本の死刑状況についての簡単な解説がありました。この講演会を企画した一番の理由は、死刑に賛成する国民があげる一番大きな理由が「被害者やその家族の感情」だからです。しかし私たちは、実は「怒りや憎しみ」の感情にだけ強く共感して同調しているのではないでしょうか?

講師である卓司祭は韓国ソウルのご出身で、1994年、徴兵の義務に服していていた21歳の時に、お父様が殺害されてしまいました。いわゆる被害者家族のお一人です。被害者家族として私たちの想像を絶する悲しみや苦しみを経験され、現在は司祭として死刑廃止を訴える立場で活動をされています。お父様が殺害されてから30年という時間が流れましたが、その時間の経過の中で、何故、何をきっかけに死刑廃止を訴えるようになられたのか?「韓国人として、聖職者として、被害者の家族として」というお立場から、非常に心に響く意義深いお話を語っていただきました。

お父様が殺害されたとき、韓国ではまだ死刑制度が残っていました。(現在では、韓国は事実上の死刑廃止国※です。)ご家族は加害者が死刑にならないようにと嘆願書を提出しました。その理由の一つは「人間が人間を殺してよいのか?」です。卓司祭ご自身は、30年たった現在でも「加害者を恨んでいるか?」「加害者を赦せるか?」といった問いかけには心が揺れてしまうそうです。しかし同時に、「犯人が処刑されたら、自分の人生の何が変わるのか?殺害された父は帰ってくるのか?自分の心は穏やかになれるのか?」と自らに問いかけます。宗教者としての卓司祭にとっては、人間の「生と死」を決めるのは神の領域であって、人の命を奪う行為(=殺人)は神の領域を侵犯するものです。だとすれば、公権力としての殺人(=死刑)は正しいのか?法による正義を反映しているのか?個人であれ、国家という公権力であれ、人の命を人が奪ってはいけないと私たちに訴えかけられました。

最後に私たちがなすべきことについてもお話が及びました。日本は民主国家です。私たちは参政権を持っています。声をあげることは大切です。その手段は選挙です。死刑制度は民主国家の中で私たちが決めたことです。それをなくすのも私たちです。選挙に行って私たちの声を反映しなければなりません。

約90分のお話の後、質疑応答の時間がありました。数名の方が熱心に質問され、卓司祭は各質問に対して丁寧にお答え下さいました。最後にこの講演会の締めくくりとして、「死刑を止めよう!」宗教者ネットワークの代表より挨拶がありました。あっという間の2時間でしたが、参加者の心に卓司祭のメッセージが届いたと思います。

注)韓国で最後に死刑が執行されたのは1997年12月で、それ以降、今日に至るまで死刑は執行されていない。10年以上死刑が執行されていないことから、韓国は「事実上の死刑廃止国」と見なされている。

 

実施日 2023年10月3日(火)18:00~20:00
場所 日本聖公会大阪教区 大阪聖愛教会
主催 アムネスティ日本 死刑廃止ネットワークセンター大阪
「死刑を止めよう!」宗教者ネットワーク

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