日本:特定秘密保護法案、表現の自由の侵害に対する深刻な懸念

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2013年10月23日
[日本支部声明]
国・地域:日本
トピック:

日本政府は、10月15日から始まった臨時国会において、「特定秘密の保護に関する法律案」(以下、特定秘密保護法案)を提出する予定であるとされる。この法案は、「表現の自由」や市民の「知る権利(情報へのアクセス権)」を著しく制限しかねないものである。アムネスティ・インターナショナル日本は、国際的な人権基準に鑑み、この法案に対して深刻な懸念を表明する。

日本が批准している自由権規約第19条第2項は、「すべての者は、表現の自由についての権利を有する」と定めている。同時に、同条は「この権利には、…あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む」と規定し、表現の自由の根幹に、情報へのアクセス権を置いている(注1)。情報へのアクセス権は、単に配慮や努力規定としてではなく、明確に権利として保障されなければならない。

自由権規約の第19条第3項は、情報へのアクセス権を例外的に制限する場合を特定している。この制限は、「他の者の権利又は信用の尊重」及び「国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」を目的とし、それがどうしても必要な場合のみに、厳密に限られている。

政府が発表した特定秘密保護法案の概要および最終案では、安全保障に関する特に秘匿が必要である情報を、行政機関の長が「特定秘密」として指定し、その漏えいを処罰するとしている(注2)。特定秘密に指定されうる事項は、「防衛」「外交」など極めて曖昧かつ広範囲にわたる規定となっており、自由権規約が認める制限の範囲を超え、政府の恣意によって多くの公的情報が特定秘密にされる恐れがある。また、秘密とされる期間は上限なく延長可能であり、いかなる情報が特定秘密に指定されたのかも秘密とされるため、永続的にその情報が開示されなくなる危険がある。

これは、表現の自由の根幹である情報へのアクセス権を、政府が不当かつ大幅に制限するものである。特に、公衆の健康に関する情報、国際人権法及び国際人道法に反する事実などに関係する情報、自由権や生命権、拷問・虐待の防止に関わる情報などは、積極的に公開・開示されなければならない情報である(注3)。しかし、現在の法案では、「特定秘密」の名の下に隠される危険がある。その上、そのような情報が隠されたとしても、同法案の下では隠されたこと自体が秘密にされ、指定の妥当性や運用を審査する独立した監視機関が存在しない(注4)。

同法案は、このような広範かつ不透明な特定秘密について、未遂や共謀、教唆、扇動も含めた漏えい行為を処罰するとしている。これについては、配慮規定が設けられた報道機関だけでなく、政府の活動に関する調査や情報公開を求めるNGO・NPOやジャーナリスト、研究者、労働組合など、市民の表現の自由に関する様ざまな活動が罪に問われる可能性もある。

自由権規約委員会は、規約第19条第3項の情報へのアクセス権の制限について、「権利自体を危うくするものであってはならず」、また「十分な明確性をもって策定されなければならず、…表現の自由の制限のために自由裁量を与えるものであってはならない」。さらに、「制限の対象は広範すぎてはならない」との見解を示している(注 5)。今回の法案は、これらに照らして、明らかに広範すぎる制限を課すものであり、強い懸念を抱かせる。

同法案は、特定秘密を取り扱う行政機関や民間企業の職員、さらにその家族や関係者に対して調査を行うとしている(適性評価)。この規定によれば、調査事項の定義が曖昧かつ広範囲に及ぶため(注6)、評価対象者とその家族、関係者の思想信条や、関係するとみなされた団体(NGO・NPOや労組など)の活動状況の調査が行われる危険がある。また、評価対象者以外の家族や関係者には、本人の同意なく調査を行うことが可能になっており、しかも、そうした調査に対する不服申し立ての手続きも存在しない。このような調査は、表現の自由に対する不当な干渉にあたるだけでなく、自由権規約17条が定める「プライバシー、家族、通信等の保護」に違反する恐れがある。

さらに、もし個人が、同法案に定める特定秘密の漏えいに関する罪に問われた場合、具体的にどのような特定秘密の漏えいに該当するのかが被告人および弁護人に開示されないまま裁判が行われる恐れがある。これは、裁判の公開や裁判における被告人の防御権を定めた自由権規約14条に違反する可能性がある。

アムネスティ日本は、このように、表現の自由をはじめ複数の国際人権基準に違反する恐れのある今回の法案について、深刻な懸念を表明する。日本政府は、自国が批准している国際人権基準を誠実に遵守し、表現の自由の根幹にある、人びとの情報へのアクセス権を明確に保障する立法や政策をこそ実施しなければならない。情報へのアクセス権の制限は、そうした原則が確立された上での、あくまでも例外的かつ限定的な措置なのである。

注1
自由権規約委員会は、その一般的意見34において、「第19条2項は、公的機関が保有する情報へのアクセス権を包含する」(パラグラフ18)、「情報アクセス権を実効あらしめるため、締約国は、政府が持つ公益情報を、積極的に公開すべきである」(パラグラフ19)と明確に指摘している。

注2
「特定秘密の保護に関する法律案の概要」
「特定秘密保護法案の最終案詳細」(朝日新聞、2013年10月17日)

注3
アムネスティを含む世界70カ国の22の団体は、500人以上の研究者、国連の特別報告者らと協議を重ね、2013年6月に「国家安全保障と情報への権利についてのグローバル原則」(Global Principles on National Security and the Right to Information、以下、ツワネ原則)を採択した。その原則10で、政府が公開および積極的に開示すべき情報として以下の情報を具体的に列挙している。

  • 国際人権法および人道法の違反に関する情報
  • 自由権および人の安全、拷問や虐待の予防、生命権に関する情報
  • 政府の機構と権限に関する情報
  • 軍事力の行使または大量破壊兵器の所持についての決定に関する情報
  • 諜報活動に関する情報
  • 国家財政に関する情報
  • 憲法や法令の違反、およびその他の権力乱用に関する説明責任
  • 公衆の健康、治安あるいは環境に関する情報

ツワネ原則(英語)は以下で参照できる。
http://www.opensocietyfoundations.org/sites/default/files/tshwane-principles-06122013.pdf

注4
ツワネ原則の原則3は、情報へのアクセス権への制限について、「国家安全保障上の情報へのアクセス権の制限は、法によって定められ、正当な国家安全上の利益を保護するために民主主義社会において必要性があり、および、濫用に対するセーフガードを法によって定めていない限り、制限してはならない。セーフガードには、制限の妥当性についての独立した第三者機関による迅速で徹底、アクセス可能で効果的な審査や、裁判所による十分な審査が含まれる」と規定している。

注5
自由権規約委員会・一般的意見34パラグラフ21、25、26、34。

注6
最終案によれば、「特定有害活動(公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動…)との関係に関する事項」など、曖昧かつ広範な調査事項が列挙されている。

アムネスティ・インターナショナル日本支部声明
2013年10月23日