8月8日、講演会「元刑務官が語る死刑 -心を蝕む日本の死刑制度-」を開催しました。主催した、アムネスティ日本 死刑廃止チームのメンバーが報告します。

国際基準では精神的・知的障がい者の死刑を禁じていますが、日本では死刑判決の宣告や執行が行われている現状があります。

大阪拘置所に収監されている精神的障がいを持つ死刑囚・松本健次さんを通じて死刑と精神障がいなどの問題を知ってもらおうと、東京拘置所などで勤務した元刑務官の坂本敏夫さん、松本健次さんの弁護人の金井塚康弘さんによる講演を行いました。当日およそ100名の参加がありました。会場では松本さんの絵の展示も行いました。

坂本敏夫さんのお話

坂本敏夫さん坂本敏夫さん

はじめに坂本さんから拘置所内での受刑者の処遇と刑務官の仕事について伺いました。

日本の法律では個室に収監する期間の上限は3か月と定められていますが、更新可能で重い罪を犯した受刑者は20~30年収監されたままとなります。畳と洗面所、トイレがある4畳ほどの部屋で生活しますが、外に出られるのは1日30分程度の運動時間と入浴時のみで、刑務官・面会者以外と接触することは禁じられています。このような閉鎖的な空間に長期間収監されるため、精神的に不安定になる人がいるとの説明がありました。刑事訴訟法でも精神障がい者に対する死刑執行は禁止されています。

また、死刑判決を受ける人には十分な教育が受けられなかった人や精神的障がいを持っている人など社会的な弱者が少なくないとの指摘がありました。

死刑執行が刑務官に与える影響については、更生のため何年間も世話をしてきた死刑囚に刑を執行しなければならず、耐え切れず退職する人もいるとの説明がありました。また、刑務官は国民の代理として死刑を執行するのだから、死刑については国民全員で受け止める必要があると訴えていました。

金井塚康弘さんのお話

金井塚康弘さん金井塚康弘さん

続いて金井塚さんからは松本健次さんの事件の詳細について伺いました。

松本健次さんは熊本県で起きた2件の強盗殺人の罪で有罪となり、2000年に死刑が確定しています。実兄との共犯ですが、兄は松本さんを出頭させた後、自殺しています。

まず、事件当時の状況についての説明があり、そのなかで生まれつきの知的障がいのため、自分の体験事実を表現することが困難で、取調べの際に自白を誘導された可能性を指摘されていました。

質疑応答

講演の後は、質疑応答を行いました。

冒頭にアムネスティ日本の死刑廃止担当職員・山口から、今回松本さんの支援を決定した理由についての説明があり、刑事責任能力鑑定の結果はアメリカの州によっては執行停止しなければならないほどの基準であること、生まれつき胎児性水俣病による知的障がいがあること、精神的障がいを拘置所内で発症していることなどを挙げました。

現在の松本さんの状態についての質問には、金井塚さんから長期間の収監により妄想などの拘禁症状が見られる状態で、自殺未遂を起こすなど精神状態が著しく悪化しているとの説明がありました。

また、拘置所内の医療についての質問には、現状抜歯しか行われていない歯科治療を例に、一般的な水準の医療を受けることは難しいとの説明がありました。

最後は、坂本さんからの裁判員裁判などの影響で厳罰化の傾向にある日本の司法を若い人の手で変えて欲しいとの言葉で締めくくりました。

(上)会場は満員でした。(下)松本健次さんが描いた絵の展示(上)会場は満員でした。(下)松本健次さんが描いた絵の展示

オンライン署名にご参加ください。

日本には、精神障がいや知的障がいを持つ死刑囚がいます。罪を犯した者は、その罪に向き合い、被害者のことを思い反省する必要があります。しかし、刑の意味を理解できない人を処刑することが、果たして公正といえるのでしょうか。アムネスティは、命を奪うのではなく、国による適切な治療が必要だと考えます。死刑執行ではなく、治療を求めて、法務大臣と厚生労働大臣へ要請してください!

▽ 日本:精神障がいや知的障がいを持つ人に対する死刑を止めて!
https://www.amnesty.or.jp/get-involved/action/jp_201508.html

開催日 2015年8月8日(土)
場所 早稲田奉仕園 BF リバティホール(奉仕園会館)

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