2019年3月21日(木・祝)、横浜市市民活動支援センターで、上映会「ウイグル強制収容所から奇跡の生還~オムルベク・アリさんが語る~」を開催しました。主催したアムネスティ日本かながわグループのメンバーが報告します。

現在、中国では少数民族、特にウイグル人が、突然、強制収容所に収監されるという事件が相次いでいます。特に中国北西部の新疆ウイグル自治区では、100万人に及ぶウイグル人やカザフ人が強制収容所に入れられ、そこでは強制的な「教育」や拷問が行われていると報告されています。

アムネスティは2018年11月、収容所から奇跡の生還を果たした、オムル・ベカリ(ペンネーム:オムルベク・アリ)さんを迎え経験談をお伺いする講演会を、東京と大阪で開催しました。今回、反響の大きかったこの講演会を録画したDVDの上映会を横浜で開催しました。

また、当日は、ウイグル問題に詳しい水谷尚子さん(明治大学講師)から、ウイグルの状況について説明がありました。

水谷尚子さんのお話

2016年8月、陳全国氏が新疆ウイグル自治区党委員会書記に着任してから、急激に情勢が悪化。陳全国氏は、それまでチベット自治区党委員会書記を務めており、同自治区では、毎日のようにお坊さんによる抗議の焼身自殺が起きていた。

強制収容所には、ウイグル人を中心としたムスリムの人たちが閉じ込められている。国連によると100万人を超えるウイグル人が捕まっている。強制収容所から出てきた人はほとんどいない。カザフスタン国籍のウイグル人、ウイグル人とカザフスタン人の子供などがカザフスタン共和国の尽力で数人出てくる程度で、証言者が極めて少ない。

オムル・ベカリ(ペンネーム:オムルベク・アリ)さんは、ウイグル人とカザフスタン人の子で、カザフスタンの国籍と中国の国籍の両方を持っていた。カザフスタン大使館と国連に訴えた妻の尽力で、収容所から出所できた。

出所の際には、中国側から何も言わないように念書を書かされた。しかし、出所と同時にインタビューを受けたことなどから、その後、脅迫を受けるようになった。

オムル・ベカリさんは、カザフスタン国籍だが、カザフスタンは中国の隣に位置し、またいつ収容されるかもしれない恐れがあるため、現在はトルコに事実上亡命の状態にある。

2018年11月当時、各国がビザを出さない状態であったが、日本政府がビザを出したため、初めての国外での講演が日本で実現した(その後、他国もビザを出すように)。

オムル・ベカリさんは、本名で活動するのが怖くペンネームのオムルベク・アリを使っていたが、日本に来たことをきっかけに、その後は本名で活動している。

新疆ウイグル自治区のウイグル人は約1,100万人おり、うち100万人が拘束されているとすると、ほぼ10人に1人が拘束されていることに。これは、ウイグル人の身内の誰かが必ず拘束されている状態になっており、国外にいるウイグル人も精神的につらい状況に陥っている。

中国は、大学教員やジャーナリスト、実業家といった(職業訓練の必要がない)著名人を拘束しておきながら、強制収容所のことを「職業訓練所」と称している。拘束者の中には、日本に留学して帰国した人が相当数いる。例えば、タシポラット・ティップさんは、東京理科大学を出て博士号を取り、新疆大学の学長になったが、「職業訓練所」に入れられている。

現在、中国政府は国外にいるウイグル人のパスポートを更新しようとせず、片道の旅行証を渡し中国に帰るように促している。そのため、多くのウイグル人はパスポート切れを恐れている。特に、乳児については、中国の国外で手続きができず、無国籍状態になっている。

新疆ウイグル自治区は、干しブドウの名産地であるが、多くの農民や現地の商人が拘束されてしまったため、貿易にも影響が出ている。

留学生は、本国からの仕送りが滞ってしまっており、学業を続けられない状況に。

パスポートが切れたウイグル人の学生は、日本の特別在留許可が出るまでは、海外の学会に自由に行けない。日本政府はウイグル人を強制送還することは、現時点ではおこなっていない。日本の大学が留学の許可を出しても、ウイグル人の学生が来ないケースが、各大学で出ている。また、一時帰国して、行方不明になってしまった大学院生もいる。

オムル・ベカリ(ペンネーム:オムルベク・アリ)さんの証言

1976年、トルファン(新疆ウイグル自治区)生まれ。2006年にカザフスタン国籍を取得。カザフスタンで有名な旅行会社の副社長を務めていた。

2017年3月23日、中国の関係者をカザフスタンの国際イベントに招致するため、中国を訪問。仕事を終えた後、3月25日に休暇をもらい、両親の住むトルファンの実家を訪問。翌26日、実家に武装警官5名が突然現れ、いきなり手足を縛られ連行される。

連行されてすぐ、3時間かけて、血液検査やDNA、各臓器の検査などの身体検査をされる。中国では囚人の臓器売買が疑われており、その対象になるのではないかと、恐怖を抱く。鉄の椅子に両手両足を鎖でつながれ、24時間通しで4日間尋問を受け、暴行された。尋問では、「国家の分裂を図った罪」、「テロ活動を計画した罪」、「テロリストを擁護した罪」を認めるよう強く迫られた。

カザフスタンの国民であること、弁護士と面会する権利があること、カザフスタン大使館に連絡する権利があること、家族と連絡をとる権利があることを訴えたが、一切聞く耳をもたれなかった。

尋問後、手足を24時間拘束された状態で3カ月間を過ごした。

食事の際には、中国共産党、習近平、中国という国家への感謝の言葉を強要され、これを拒絶したり、共産党を称える革命歌を歌えなかったりすると、

  • 壁に向かって手足が縛られた状態で24時間立たされる
  • 鉄の椅子に、両手両足を鎖で縛られた状態で24時間座らされる
  • 真っ暗な部屋に24時間閉じ込められる
  • 真夏に全裸で24時間立たされる
  • 真冬に素足で氷の上に立たされ、冷水をかけ続けられる
  • 両手を天井に吊るされた状態で徐々に、汚水が広がる池に首まで沈められる

などの、さまざまな処罰を受ける。

収容所から生きて出て来ることは、ほとんどないに等しい。中国共産党は「完全なる民族浄化」を実行している。80歳の父は、2018年9月18日、強制収容所で殺された。自分も収容所で、目の前で死んでいく人を2度見た。

私が奇跡的に生還できた理由は、カザフスタン国民であり、カザフスタン外務省が努力してくれたおかげ。NGOの努力も大きな要因だった。さまざまな方々の努力で、2017年11月24日、生きて収容所を出ることができた。

70歳の母をはじめ、私と妻の家族を合わせ13人の親族が強制収容所にいる。実際に収容されているのは、100万どころか、その数倍はいるだろう。21世紀に、このようなひどい犯罪行為を中国が堂々とおこなっていることを知って欲しい。

ヌーリ・ティップさんの証言

兄の新疆大学学長のタシポラット・ティップさんは、強制収容中で死刑判決(執行猶予2年)を受けている。

タシポラット・ティップさんは、東京理科大学に留学し、修士号、博士号を取得。帰国後、新疆大学(新疆ウイグル自治区の最大の教育機関)に勤め、学長になる。中国共産党員でもある。ヌーリ・ティップさんも日本に留学していた。

日本から中国への一時帰国時に尾行されたこと、日本への帰国時に中国の空港で取り調べを受けたことから、身の危険を感じ、中国に帰らずにアメリカに移住。その後、兄弟で、連絡を取らないようにしていた。

オンラインアクションにご協力ください

現在、アムネスティでは、100万人にも及ぶウイグル人やカザフ人たちの不当な拘束をやめるよう、中国政府に要請するアクションを、世界中で行っています。ぜひ、ご協力をお願いします。

上映会「ウイグル強制収容所から奇跡の生還~オムルベク・アリさんが語る~」を開催

実施日 2019年3月21日(木・祝)14:00~16:30
場所 横浜市市民活動支援センター
主催 アムネスティ・インターナショナル日本 かながわグループ

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